
喜多方「坂内食堂」の肉そば
2016年7月、会津若松の仕事を終えて、担当職員の方に「ランチ何食べます? ラーメンですか? 丼ですか?」と聞かれて「ラーメン」と答えると「では喜多方ですね」と車に乗せてもらい、30分ほど走り喜多方へ。
喜多方市内では、平日の昼間なのにパンフレットらしきものをもったペア、ないしグループが多数うろついている光景に驚きました。「みんなラーメン食べにきているんですよ」と職員の話だが、ラーメン屋らしきものはあまり見当たらない。と、思ったら民家や大衆食堂のような場所がだいたいラーメン屋だという。
その中でも、職員イチオシのお店が「板内食堂」。なんの変哲もない田舎町に、突如あらわれる行列。「いつもこうです」と職員は落ち着いているが、いやいや並びすぎでしょう。外に15人ほど並んでいても「きょうは少ない方です」って。しかも、やっと店内に入ったと思ったら、まだ並んでいた!
店内左手には厨房があり、右手にはお土産どころ。中央に客席が展開されていて、並んでいる僕らは、美味しそうにラーメンをすする人達を物欲しげに見ながら耐えなければいけない。これはつらい。それでもようやく順番がまわってくると、厨房の脇にあるレジで、おばちゃんに注文をする。職員が若いころから大好きという「肉そば」(950円)を頼むと、席へ向かう。
でてきたのは、上部をすべて被うチャーシューの連なりが印象的な「肉そば」。これはまさに肉布団。最初は麺を……と思ってチャーシューを箸でずらそうとするものの、つるっとまたずれて上部を被っていきます。まさに肉を食べずには麺に到達できない、肉ありきラーメン。肉を先に口に入れると思いのほかあっさり、そしてやわらかくてジューシーなチャーシューです。うまい。
麺は太いちぢれ麺であっさり目のスープがしっかり絡んできます。そのスープは、朝一番が美味しいらいしのですが、それでもおいしい。シンプルな味でありながら、奥深さを感じます。この塩気は何だろう、普通の塩だとこんなに深い味わいにならない感じもすると話していたら、古くからこの店を愛しているという職員は「僕はこれ山塩だと思うんですよね」と話す。
山塩は、会津でも「会津山塩」がつくられている。山塩は海塩と違って、原材料は温泉水でそれを煮詰めて塩とする。塩辛さのなかに甘みがあり、坂内食堂のスープにはこの山塩が使われているのではないだろうかという話。しかし、スープのレシピは秘密ということで、その答えは店主のみぞ知る。
帰り道、「昔から喜多方にラーメン屋は多かったんですが、喜多方といえばラーメンみたいになったのは、林家木久蔵さんがテレビで話してくれたのがきっかけなんですよ。いまから30年くらい前かな……ほんとに喜多方市は木久蔵さんが市長でもいいくらいだと思いますよ」と、職員は教えてくれました。一人の人間の力が喜多方ラーメンをここまでひろめたということか。木久蔵さん、すごい。